前作のエピローグ|『アウトレイジ 最終章』|感想【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

前作のエピローグ|『アウトレイジ 最終章』|感想【ネタバレ注意!】

2017年12月1日金曜日

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 北野武監督のヤクザバイオレンス映画『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』の掉尾を飾る文字通りの最終作が『アウトレイジ 最終章』です。キャッチコピーが全員暴走とありますが、実はそれほど暴走感ありません。いや静かに暴走している感じです。思ったのは『アウトレイジ ビヨンド』の落とし前というか、エピローグだなと。すると結果的に『ソナチネ』っぽくなったなという。割と鑑賞した方で、『アウトレイジ最終章』の感想を書いている人はそう思っている方多いようです。

youtube|ワーナー ブラザース 公式チャンネル|映画『アウトレイジ 最終章』本予告

 『ソナチネ』は結局これが最後になるかもと思って北野武監督はやりたいことを全部いれたそうなんですが、『アウトレイジ 最終章』は反対に久しぶりバイオレンス映画を撮ったらヒットして、原点回帰じゃないけど落とし前の部分としてビヨンドまで作ったけれどちょっと収まり悪いなってことでエピローグにしてみたんではないでしょうか。それとともにそういった北野武映画の暴力系へのレクイエムもあって、『ソナチネ』のセルフオマージュのような感じになったんじゃないかなと見ているんですが。

全員、暴走、そして…

ストーリー

 花菱と山王の抗争に巻き込まれた大友は裏で画策していた刑事の片岡を射殺した後、日韓にまたがる大物フィクサー、張(チャン)会長の手引きで済州島に潜伏していた。済州島の張の息のかかったデリヘルなどの風俗店を仕切る仕事をしていた大友に日本のヤクザが派遣した女の子にいちゃもんをつけているという。花菱組の花田となのる男はゴネるが、その場に出向き金で片を付けることに話がまとまった。しかし金を受け取りに向かった若衆の一人が花田の手下に殺されてしまう。大友の世話係である市川以下、組織の面々は落とし前といきり立つが、日本の方でもこの件が花菱組に波紋を投げかけていた。


 花菱は先代が亡くなり、先代の跡目を継いだのが娘婿の野村。彼は元証券マンで、先代から組を切り盛りしてきた若頭の西野や補佐の中田はそれが面白くない。そして新参の花田は先代では御法度だった覚せい剤(シャブ)などのシノギで勢力を伸ばし幹部に金をばらまいてのし上がったもののその振る舞いが少々目に余るところがあった。弟分の花田から相談された張グループともめ事を今起こすのは得策ではないと考えた中田はまずは三千万円を包んで頭を下げに行ったものの失礼な振る舞いで張に追い返される始末。仕方なく野村と西野に報告する。西野が張との間を取り持つと請け負ったが、野村は何かと反抗する西野をこれを利用して排除しようと中田を取り込もうとする。


 しかし中田はそれを西野に密告。張との手打ちは済んだ花田と西野を暗殺したと見せかけの村を罠にはめようとする。そこに手打ちは済んだと聞いても収まらない大友が突如、帰国する。落とし前を付けるために日本に舞い戻った大友を助けるために市川たちも合流。そして花菱の内部抗争に巻き込まれていく事になる。

大友の決着

 tonbori堂は『アウトレイジ』はかなり衝撃的で、久々に北野映画が暴力に帰って来た!しかも振り切っちゃってるって思った人です。でも映画としては『アウトレイジ ビヨンド』が好きです。組織の中でもアウトローだった男が寄る辺なくどちらというものでもなく死を振りまいていく。ある種マカロニウェスタンの名無しの男のようにっていうのが色濃く出ていて、周りの人間が右往左往するという展開がまさにマカロニウェスタン的に感じていました。

youtube|ワーナーブラザーズ公式チャンネル|映画『アウトレイジ ビヨンド』予告編

 しかし今回の『アウトレイジ 最終章』は前作『ビヨンド』の落とし前をつけていくかのような展開とともに、以前の北野映画らしさを匂わし一筋縄ではいかない感じになっていました。ひと言で言えば前作にあった生きている人間のぎらついた感情と現実への虚無感がないまぜになったものではなく、初期の北野映画にあった虚無感が支配的な感じ。前作まではその塩梅はバランスがとれていたなと思ったんですが今回は『ソナチネ』や『3-4×10月』に寄せてきた事からセルフオマージュのように見えたのかなと感じたのですが…。ただ『アウトレイジ』シリーズのマナーは踏襲され、前作の登場人物や他のキャラによりその部分は引き継がれています。こういった娯楽映画的な作品へのある種の開眼ってのは『座頭市』からなのかなって実は見ているんですがどうでしょう。でも北野監督はやっぱり自身の分身である大友の決着が付けたかったのかなと。それで今回『最終章』を撮ったのかなと思っています。

キャスト

 まずは張(チャン)会長の金田時男さん。なんでもビートたけしの友人で本業は不動産などを手掛けてる実業家だそうですが…演技は正直素人然としているんですが前作でもそうなんですけど眼光が鋭すぎるというか…本物のそちらの方ではと。別にそういうのは珍しく無い話で元ヤクザの俳優といえば安藤組組長の安藤昇さんが思いおこされます。とにかく張会長がいるだけで凄い緊張感です。その張会長の右腕、李(リ)を前作に引き続き演じるのが白竜。Vシネマのヤクザモノでお馴染みですが元々はミュージシャンと聞いていますが自分の知っている白竜さんは『僕らの勇気 未満都市』のユーリ(宝生舞)のお父さんでありながら対策本部の冷徹な本部長、柴崎が印象深いのです。北野映画では『その男凶暴につき』にも出演、不気味な殺し屋役でした。そう思うとこれまた感慨深いものがあります。


 大友の済州島での世話係で手下の市川を北野組初参加の大森南朋。なんともいえない大友に懐くワンコみたいな市川を飄々と演じていて、ビートたけしと共演、しかも北野映画でというのがすごく嬉しかったんだろうなあっていうのが顔からにじみ出ているくらいでした(笑)またこれまでの『アウトレイジ』シリーズでたけしと絡む役としては感じが全く違ってていいアクセントになっていたと思います。また彼が狂言回しとして最後にこの作品を看取ったのかなと思うのですが。


 物語の発端を作る花菱組の花田にはピエール瀧。最近引っ張りだこですよね。NHKの『64』の時にはプロデューサーに昭和顔ということでキャスティングされたんですが、バラエティー番組で見せるおちゃらけとは違う強面な部分と、ちょっと情けない部分の塩梅、これが北野監督欲しかったのかなと(笑)その期待にしっかりと応えていたと思います。花菱組の会長野村には大杉漣。北野組常連として数多くの作品に出演してきましたけど、ここしばらくの作品では出て無かったような。東テレ『バイプレーヤー』を観てるとどうしてもこの役と紐づけされちゃうんですが(同じく『バイプレーヤー』組では光石研と松重豊も前作から引き続き続投)となるとなぜオフィス北野所属、寺島進は出て無いのかとかになるのです(笑)観てる最中、大杉さんの出演シーンはそっちばっかり気になりました(ヲイ!)


 花菱組の西野に中田は前作よりの西田敏行と塩見三省。お二人とも前作からちょっとお身体を壊して療養されたりとか大変だったわけですが、今回かなり老いを意識した演技プランで臨まれているのかなと。歳を取ってそれなりに狡猾に、ギラギラしたところはという。そういえば監督がインタビューなどで西田さんのアドリブには困らされたとこぼしていましたが(笑)さすが当代きっての役者陣、ただでは転ばないというところでしょうか。とくに塩見さんは病み上がりすぐのお仕事で大変だったでしょうが反対にそれを不気味さに変換してきて役者の執念を感じました。それは西田さんもそうなんですけれど。いやお二人とも今回はある意味大活躍でしたね。

北野武「アウトレイジ 最終章」で西田敏行に翻弄されたこと明かす、大森南朋は歓喜(写真34枚) - 映画ナタリー

 もう一人、北野映画でお馴染みの岸部一徳も花菱組幹部で出演。役どころ的には一番漁夫の利を得ている本当に煮ても焼いても食えぬという役をこれまたらしく演じていてちょっとほっこり(笑)一徳さんは『座頭市』では派手にぶっ殺されていましたからね(^^;

最後に

 やはりこの映画はtonbori堂にはちょっと蛇足感あるかなとは思いました。『ビヨンド』が好きな終わり方だったのもあるんですが。ただ『アウトレイジ』シリーズのエピローグとしてはよく出来ているし、落とし前もつけているし、現実はそう甘くはないというのもしっかりだしているしそれなりにバランスはとれているんですよね。それぞれにご高齢になってきたことで、倉本聰が『やすらぎの郷』を書いたように、老境にさしかかりやはりそっちへの想いが高まっているのかなと。ただtonbori堂は北野武監督の前作『龍三と七人の子分たち』を観ていないんですが、そこらへんが元気な爺さんを描いていたんでやっぱり反動あるのかなと感じました。ということで遅ればせながら今度は『龍三と七人の子分たち』を観てみたいと思います(ヲイ!)

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