知恵の実を得た人類の未来。『楽園追放-Expelled from Paradise-』|tonbori堂アニメ語り【ネタバレ注意】-Web-tonbori堂アネックス

知恵の実を得た人類の未来。『楽園追放-Expelled from Paradise-』|tonbori堂アニメ語り【ネタバレ注意】

2017年10月21日土曜日

anime movie SF

X f B! P L

 『楽園追放-Expelled from Paradise-』とは?東映アニメーションとニトロプラスがタッグを組んだCGアニメーションです。AmazonビデオのAmazonプライム見放題に『楽園追放-Expelled from Paradise-』が追加されました。この作品は2014年11月にティ・ジョイで配給され公開されたCGアニメーションによるアニメ映画です。アニメーション制作スタジオの老舗、東映アニメーションとゲーム制作から最近はアニメーション、特撮と分野を拡げ気鋭のクリエイター集団としても有名なニトロプラスが組んだフルCGアニメーションとして話題になりました。封切の時観れなかったため今回の鑑賞してみました。

『楽園追放 -Expelled from Paradise-』PV(地上篇)/EFP.official/YouTube


東映が初挑戦したフルCGアニメーション映画

 当時、東映アニメーションがCGという事でちょっとした話題になったので覚えている人も多いかもしれません。砂漠に立つ球体をメインにデザインされたロボット兵器とSF美少女とアナクロガンマンいうポスターのイメージビジュアルは、いかにもという感じではありました。

ストーリー

 地球はナノハザードにより廃墟とかした、人々はその災厄から逃れるため宇宙に住まいを移し、精神をデータとし電脳空間へ暮らすようになった。ラグランジェポイント1にあるディーヴァはそんな地球人類の楽園として繁栄していたが、ある日「フロンティア・セッター」と名乗る人物よりクラッキングを受ける。ディーヴァの保安局の3等捜査官アンジェラは、ハッキングが地上からということを突き止める。保安局上層部より地上に降り立ちフロンティア・セッターを補足、ハッキング行為の停止を命じられたアンジェラは自身の遺伝子情報から生成された生身の身体、マテリアルボディに精神を転送し、地上に向かう。


 ナノハザード後の地球にも幾ばくかの人類が居住しており、ディーヴァの求めに応じて協力する工作員の一人ディンゴとともにフロンティア・セッターを追跡するアンジェラは野蛮で不潔な、しかし生命力に溢れるリアルワールド(地表)に戸惑いながらもディンゴの力でフロンティア・セッターの手がかりをつかむ。そしてやっと掴んだフロンティア・セッターの驚愕の秘密とは?アンジェラの冒険が始まる。

楽園追放

 と言えばだいたい「失楽園」を思い出します。『エイリアン:コヴェナント』も初期段階では「失楽園」というタイトルがついていたそうですが、そういえば渡辺淳一の小説で『失楽園』がありましたがあれとは違います、ミルトンの「失楽園」です。内容をかいつまででいうと、神から作られた最初の人間、アダムとイブが蛇(ルシファー)から唆されて知恵の実であるリンゴを食べてしまったためにエデン(楽園)を追放されてしまうというお話です。(元々は聖書に書いてある説話の一つ。)今回のお話はその話がベースにあるというのは間違いないでしょう。えっ?だれが蛇で誰がアダムとイブなん?ってなりそうですけど。アンジェラがストレートにイブという話ではないですよ。

 既に公開から2年が過ぎ語りつくされているかもしれませんが、今回初めて観たので、それなりに思ったことを書き留めておきたいと思います。

アダムとイブとルシファー

 この話ではアンジェラがヒロインで主人公であるのでイブの役割ではあるという見立てもできます。ディーヴァがこの世のエデンであるならばアンジェラは知恵の実をかじったために追放されるという事になるのですが、電脳空間を掌握しているディーヴァが楽園というのは間違いないのですが型通りの知恵=知識ならばディーヴァに勝るものはないはず。つまり知識(叡智)と知恵はちょっと違うという見立てが成り立ちます。


 知恵の実、りんごに値るするものは心、精神の解放と考えるのが妥当でしょう。そこらへんはディンゴが途中で語ってみせています。ディンゴは案内人でありアダムでもあり、ルシファー(蛇)とも言えるキャラクターではないでしょうか。もっともアンジェラがイブとアダムを兼ね備えたといってもいいません。ディンゴは元からリアルワールドの住人でディーヴァの工作員(使徒)として働いているものの誘われても上がらないつまり地(地獄)にいるものと考えるの自然です。そもそもディンゴのような現地工作員は上がりとしてディーヴァへの移住があると考えるのが妥当でしょう。ディーヴァでは老いも病もない。理想郷です。地上で限りある生を、サンドワームのような外敵や病原菌。危険もいっぱいな世界から見ればまさに天国、楽園です。ですがディンゴは今までの功績の報酬としてディーヴァへの誘いがあったものの断ったとされています。それは神へ反逆し地獄へ堕とされた天使長であり、やがて神への反逆者となったルシファーというわけです。


 ディンゴは心を閉じ込める檻であるということを本能で悟っていたからこそディーヴァへの誘いを断った。そんな窮屈なところではまっぴらごめんということです。反逆という意味では昔の音楽としてのロックがメタファーとしても使われています。人は自ら肉体の軛を解き放ち自由になったはずなのに実は不自由になっていたというのもこういったディストピアをテーマにしたストーリーの定番ではありますが、それを揺るがすのがもう1匹の蛇、フロンティア・セッターです。

フロンティア・セッター

 文字通りならばフロンティアをセットするという事ですがその正体は、作品をご覧のかたならもうご存知でしょうがナノハザードの頃より稼働している外宇宙探査船ジェネシス・アーク号建設進行プログラムに付随していた最適化アプリケーションが自己アップデートにより「進化」した存在、AIです。最近なにかと話題のAIですがよくよく考えればAIは『2001年宇宙の旅』でも語られたいわばクラシックな存在でもあります。彼は進化したAIでアンジェラやディンゴともコミュニケーションがとれるほど優秀で、ロックに関する造詣も深いAIです。


 彼がディーヴァに繰り返しハッキングを試みたのは乗員の定数を揃えるため、生命維持装置の設置が難しいと判断、維持装置が省略できる電脳データ化された地球人を乗員としてリクルートするためでした。もっともその行為はディーヴァにとっては侵略、または敵対行動と、とられてしまいましたが、上位管理権限を持つ者たちとの接触では成功しないと計算する当りも彼もまたディーヴァに対するルシファーであるものであったという事かもしれません。もっとも大いなるフロンティアへアンジェラとディンゴを誘ったものの彼らはこの地球を選びました。そう言った意味ではかれこそが新人類のアダムでもあるという解釈が出来るかもしれません。

CGアニメーションとして

 フルCGアニメーションとして機動外骨格アーハンの動かしかたといい、モーションアドバイザーに板野サーカスでお馴染みの板野一郎を迎えているのも、ああ本気だなとおもいました。板野一郎氏は近年、CG系のアクションを主に担当しておりウルトラマンなども手掛けたことも。そちらでも実績を多く残しています。マクロスの頃からの板野サーカスのファンとしては安心の布陣といってもいいでしょう。脚本担当の虚淵玄が所属し今回の企画をコラボレーションしているニトロプラスとは『ブラスレイター』で組んでいる間柄だそうです。残念ながら『ブラスレイター』は未見なのですがちょっと観たくなりました。人間の動きもアクションはちょっとカクカクかな?って思うシーンもありますが総じてなかなかのものではないかと。とは言えさすがにピクサーなどと比べると苦しい部分はちょっとありましたね。

スタッフ

 監督は『機動戦士ガンダム00』、『コンクリートレボルティオ~超人幻想』の水島精二、演出には『交響詩篇エウレカセブン』の京田知己が参加。そこからもこのアニメはテストケースとしての意味合いもありながら一方で東映アニメーションとしてしっかりとした作品を送り出すという気概も伺えます。

ナノハザードに関して

 これは余談なんですがナノハザードというと、tonbori堂は『エースコンバット3エレクトロスフィア』のミッションを思い出します。後半のSARFルートで発生するミッションなんですがナノプラントが暴走、それを抑えるために対ウィルスナノマシン弾を投下するミッションで、任務を達成するとヒロインのレナのフランカーがナノマシンによる暴走の影響を受けて暴走してしまい、それを抑えるために再度フランカーに対ウィルス弾を当てるというものでした。

エースコンバット3エレクトロスフィア/電脳化(サブリメーション)など内容はかなり先をいっていたゲームでした。




 あと攻殻機動隊も原作とS.A.Cで限定で核爆弾が使用され放射能除去のためナノマシンが稼働したという設定があったはずです。士郎正宗の漫画ではタンクポリスが活躍する『ドミニオン』でそのナノマシンが活動を停止して砂状になった世界を描いていました。それと音楽が一部、『エースコンバット3エレクトロスフィア』っぽかったですね。いや単純に傾向が近い音楽だからだと思いますが。いろいろミックスされているので同じようなテーマの作品の断片が自分の中でつながったのだと思います。

最後に

 ディンゴが台詞で説明しちゃったところがありましたが、なかなかよく出来ていたし、ロリが主人公っていう理屈も、いやそこは別にと思うところはありましたが物語の主眼やCGアニメーションの可能性などはしっかりと描いて見せたし、動かして見せたと思います。その仕掛けなども面白かったし1時間40分ほどの作品ですが興味のある方ならぜひとおすすめできる作品だと思いました。

 ディーヴァとの決着はついていない感じではあるし、リアルワールドでの冒険譚などは、観てみたい気もしますが(メディアミックスとして外伝小説などがでているそうです)この物語に関してはフロンティアセッターが外宇宙に飛び立ったところで完結しているので上手くまとまっていると思います。そういう意味でも良い作品でした。

追記:20180128:タイトル、「行く末」から「未来」に変更しました。

Amazon.co.jp: 楽園追放 Expelled from Paradise【完全生産限定版】 [Blu-ray] : 釘宮理恵, 三木眞一郎, 神谷浩史, 林原めぐみ, 高山みなみ, 三石琴乃, 古谷徹, 水島精二: DVD 

Amazon.co.jp: 楽園追放-Expelled from Paradise-を観る | Prime Video 

Amazon.co.jp: 楽園追放―Expelled from Paradise― (ハヤカワ文庫JA) : 八杉 将司, 虚淵玄: 本 

ファイブスター物語/F.S.S第17巻絶賛発売中

ファイブスター物語/F.S.S第17巻絶賛発売中
永野護著/KADOKAWA刊月刊ニュータイプ連載『ファイブスター物語/F.S.S』第17巻絶賛発売中(リンクはAmazon)

このブログを検索

アーカイブ

QooQ