その道は白骨街道と呼ばれた。|NHKスペシャル『戦慄の記録インパール』所感-Web-tonbori堂アネックス

その道は白骨街道と呼ばれた。|NHKスペシャル『戦慄の記録インパール』所感

2017年8月16日水曜日

documentary

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 2017年8月15日の夜7時半からNHKで放送されたNHKスペシャル『戦慄の記録 インパール』。独自取材と新たな資料の発見で掘り下げたものになっており、文字情報でしかその悲惨さを知らなかったインパール作戦の無謀さ、危険さを表した報道特集になっていました。インパールからの撤退路には兵士の死体がそこかしこに溢れかえり、雨期の雨に打たれ10日ほどで白骨化する事からその撤退路は白骨街道と呼ばれたそうです。



Twitter@NHKスペシャル公式アカウントの告知ツイート

兵站無視の強行作戦

 最初から兵站に無理があり補給線の確保が出来ないと分かっていたのに強行された作戦には、上層部への忖度からそれぞれの忖度のままに作戦が立案され、反対の者は左遷されるという異常事態。昔、ヤクルトスワローズなどの監督を歴任した野村克也さんはこういいました。『負けに不思議の負けなし』何故負けたのかというのは必ず負けるべくして負けている。原因ははっきりしているという事です。インパール作戦に関してもそうです。兵站というのは弾薬だけではありません。多くの兵隊が移動するということは、その3度の飯の食料。移動に必要な移動手段、燃料、医薬品etc。機動戦士ガンダムでもジオン公国のドズル・ザビ中将がギレン・ザビ総帥こういってましたね、『戦争は数だよ、兄貴』。


 ちょっと話がずれますが、緒戦が押し込まれていても、戦争と言うのは物量の消費戦でもあるので多くの物資を確保できた方が勝利できるのです。第二次世界大戦のアメリカ、ソ連などはその強大な国力を戦争遂行へと舵を切り投入していきました。昨日のNHKスペシャルでも牟田口司令官が高級参謀に何人殺せばとれるかと聞き、5000人ほどでという話で言えば、海外での軍隊でもそこは似たり寄ったりです。計上される損耗というものは絶対にあります。当然、死地に赴くのは兵隊で上級士官ではありません。そこに戦争の恐ろしさがあるのですが、少なくともこのインパール作戦で対峙した英軍は、自軍の損耗も最小限度に抑えるべく一旦、ビルマ(現在のミャンマー)からの撤退。そしてインドでの再編成を経て補給線の確保。しかるのちの反転攻勢に出る前に日本軍の侵攻を察知。迎撃戦に出る事にしたのは損耗を減らすためでしょう。


 守るに適した陣地を構築し、道なき道を侵攻してきた日本軍を準備万端で迎え撃ったとNHKスペシャルで放送されましたが、航空支援もない状況ではそうなることは目に見えていました。日本軍もビルマに堅固な要塞を築くか、もしくはビルマ全土に防衛線を構築していれば、ひょっとすると英軍に多大な損害を与えることが出来たかもしれませんが…それは分かりません。歴史にはIFはありませんから。

今も戦地に眠る戦没者たち

 硫黄島の戦没者の遺骨回収の話は聞いたことがありますが、この地域には多くの日本兵の遺骨が未だに眠っているそうで、そっちの方は放置状態なのかと思うところもありますが、現在ミャンマー、インドの国境線近くは容易に外国人が入れる状況ではないそうで、NHKの取材班も特別な許可をもらって取材に入ったそうです。そういう不安定な政情ではさすがにそういう事業をするには難しいかもしれませんが、ミャンマーも軍事政権から民主化の動きへ今まさに途上ですし、それ以前にミャンマーとパイプがある日本だからこそ、今回の取材がなし得たのかなと感じました。当時のルートは未だに残骸等が放置されており破壊された戦車の車体が密林で朽ちていたのが印象的です。また掘り起こすと人骨がでてくるそうでその一部も映っていました。

責任を取らない軍上層部。

 大本営はビルマに展開する第15軍の権限拡大による独自作戦であるとし、牟田口司令官は上層部の作戦指導であったと述べるなど、この部分が今も責任の所在をあいまいにしている日本の現状や、果てはデスマーチなどに代表されるブラック企業のことにまで言及するつぶやきがTwitterでは散見されました。牟田口司令官は戦後、英軍のパーカー中佐という人物と書簡のやりとりをしており、そのパーカー中佐がインパール作戦を評価しているというむねを書いている事に痛く感じ入り、あの作戦は失敗したが目的は間違いなかったというような事語っていたそうです。


 ですが兵站をはなから無視した作戦が上策とはとても思えませんし、単純に自己弁護でしかないのかと感じました。これは同じNHKスペシャルでの戦後に海軍の高級将校たちが総括するという『日本海軍400時間の証言』などでも時々他人事のように話すのと同じ感じです。牟田口司令官は前線に一度も出ない事はなく、前線視察をし司令部を最前線に設置して兵士を鼓舞、祝詞までをあげていたようですが、作戦中止後は結局すぐにビルマを離れています(任を解かれて左遷された)

最後に

 なんでしょう、これは昨日観ていた時につぶやいたのですが、わが国では昨今、忖度という言葉がよく使われるようになりましたが、実はずっと前から忖度していたのかもしれないなと。東条英機が膠着した戦線の打開を思い、同期であったビルマ方面軍河辺司令官にそちらのほうで何かひと花咲かせてほしいといったのを皮切りに、それを忖度した牟田口司令官が強硬に作戦を立案(後で知りましたがインパールへの侵攻ウ号作戦の前のインド侵攻作戦である二十一号作戦には反対の立場だったとか)し、補給線の確保が困難と意見具申した参謀を左遷など、周りをイエスマンで固めていったというのは潰れる会社とまるで同じです。


 そういった部分をフィーチャすることで作戦の無謀さと軍の作戦指導の拙さが浮き彫りになったと思います。そしてそれは今の世の中でも通用する教訓でもあったと思います。これは余談ではありますが、朝の連続テレビ小説『ひよっこ』のみね子の叔父さん。宗男さんはこの作戦の生き残り。英軍の若い兵隊と出くわした話をしていましたが、あの地獄からよくぞ生還されたなということで語っていない、語れない部分が予想以上に重かったと衝撃を受けていた人も多いようです。tonbori堂も『戦争を知らない子供たち』世代ですがこれから殆どの人がそうなります。その時代にこういう番組は非常に有用だと思います。温故知新、古き事は良き事ばかりでなく悪い事もしり新たにする事は重要ではないでしょうか。

 この本は日本軍の作戦指導の失敗例を検証している本だそうです。今回のエントリを書くにあたってこの本の著者の方がインタビューを受けている記事を目にして非常に興味を持ちました。将棋指しは負けた対局を徹底的に研究し、次に同じ局面が来た時には必ず勝つために準備するというのを漫画で読んだ記憶がありますが、それは真理ではないでしょうか。精神論で勝てるなら日本は連戦連勝です。負けた戦こそしっかりと検証しないと。

ソース|『失敗の本質』共著者が指摘 「東芝はノモンハン事件そっくり」 (1/4) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット) (記事の内容は東芝の巨額損失とノモンハンを結びつけていますがインパール作戦にも通じる話です。当然本にはインパール作戦の事も書かれているそうです)

失敗の本質 | 戸部 良一, 寺本 義也, 鎌田 伸一, 杉之尾 孝生, 村井 友秀, 野中 郁次郎 | 軍事 | Kindleストア | Amazon 

 NHKアーカイブスではその他の過去の特集を無料配信も行っているそうで興味のある方はご覧になってはいかかでしょうか?

Twitter@NHKアーカイブス公式アカウントのツイートより

こちらは一昨年の放送された戦後70年に際しての特集公式サイト。

NHKスペシャル|戦後70年 戦争と平和を考える 

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